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ビジネスヒント·11分

学習塾の問い合わせ対応——授業中に鳴る電話と体験授業の機会損失

Omago 編集部·
授業中で電話に出られない個人塾の教室と、保護者からの体験授業の問い合わせを逃す構造を表すイメージ

19時、個別指導の授業中に電話が鳴る。講師は経営者ひとり。目の前には生徒がいて、電話には出られない。折り返した頃には、保護者は別の塾の体験授業を申し込んでいる——多くの個人塾で繰り返されている場面です。東京商工リサーチによると、2024年の学習塾倒産は53件と、2000年以降で過去最多を更新しました。競争が厳しくなるほど、1件の問い合わせの重みは増します。この記事では、市場データと塾の経営構造から「授業中に電話に出られない」問題を分解し、特定商取引法の線引きを踏まえた問い合わせ対応の自動化までを整理します。


学習塾の市場は、いま伸びているのか?

答えは「売上は伸びているが、淘汰も過去最速で進んでいる」です。

経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」によると、学習塾の売上高は2023年に約5,812億円。前年比約4%増で、10年前の約4,041億円と比べて約44%の増加です。事業所数も2023年に11,433事業所と、5年前より約10%増えました。

ただし「学習塾の市場規模」は、調査によって数字が大きく割れます。矢野経済研究所は学習塾・予備校市場を約9,850億円規模と推計し「1兆円前後で横ばい」と評価。教育産業全体(主要15分野)では2024年度2兆8,556億円(前年度比0.7%増)です。経産省の統計は調査対象事業所の売上を、矢野の数字は市場推計を指しており、対象範囲がそもそも違うためです。数字を引用するときは「どの調査の何を指すか」の確認が欠かせません。

もうひとつ、重要な注意点があります。経産省の特定サービス産業動態統計調査は2024年12月調査をもって終了し、2025年1月分からは総務省「サービス産業動態統計調査」に統合されました。今後「経産省の最新統計」として古い年次を引用し続ける記事が出回るおそれがあり、最新値は総務省の統合後統計で確認する必要があります。

伸びる売上の裏で、淘汰は加速しています。東京商工リサーチによると、2024年の学習塾倒産は53件(前年比17.7%増)で2000年以降の最多を更新し、負債総額は117億4,400万円に達しました。少子化、人件費・光熱費の高騰、無料オンライン教材との競合が背景です。それでも参入は続いており、2023年は新設519社に対し休廃業113社。過当競争のなかで、問い合わせの取りこぼしは静かに経営を削ります。


なぜ塾は「授業中に電話に出られない」のか?

答えは、事業所の約7割が個人・小規模経営で、講師が経営者と受付を兼ねているからです。

経産省「特定サービス産業実態調査(学習塾)」では、経営組織別で「会社以外の法人・団体及び個人経営」が構成比72.2%、単独事業所が73.2%を占めます(平成21年調査。経営組織別の詳細区分として入手可能な最新の一次データですが、年次が古い点には留意が必要です)。

個人塾では、講師=受付=経営者。授業中は教室に立っており、電話応対は物理的に不可能です。そして問題の核心は、時間帯のミスマッチにあります。保護者や生徒が動けるのは、学校が終わった夕方から夜。まさに塾の授業時間帯です。授業を中断して出れば目の前の生徒への指導が止まり、出なければ見込み客を逃す。美容室が抱える「施術中の電話」と同じ構造です(美容室の電話取りこぼしの分析)。

なお「塾の不在着信率」や「機会損失額」を定量化した公的調査は、現時点で確認できません。数字での断定はできませんが、7割超が個人・小規模経営という構造データは、この問題を抱える母集団の大きさを示しています。


体験授業の申込は、どの経路から来るのか?

答えは、自塾HPのフォーム・電話・LINE・ポータルサイトの4系統が中心です。

入塾の入口は、ほとんどの塾で無料体験授業です。申込経路は自塾HPのフォーム、電話、LINE、そして塾ナビ・じゅくサガス・テラコヤプラスといったポータルサイト。塾ナビは「資料請求・電話問い合わせ・体験申込」を問い合わせ指標として明示しており、体験申込は比較検討の最終アクションとして確立しています。

申し込むのは誰か。教育系の広告支援事業者(株式会社Grill)の複数クライアント支援データでは、体験申込コンバージョンの約7割が35〜54歳の女性、つまり保護者とされています(事業者の支援データに基づく傾向値であり、公的統計ではありません)。働く保護者が塾を比較検討できるのは、勤務後の夜や週末。ここでも塾側の応対可能時間とすれ違います。

一方、「体験授業から入塾への転換率」については、業界横断の公開一次データがほぼ存在しません。各塾が個別に把握しているだけで、比較可能な統計は未整備です。裏を返せば、自塾の「問い合わせ→体験→入塾」の各段階を記録するだけで、多くの塾が持っていない判断材料を手にできます。


問い合わせには、季節の波があるのか?

答えは「ある」です。新学期前・講習前・受験期に集中する構造が、大手塾の入塾フローからも確認できます。

具体的には、①新学年に向けた春(4月入塾を見据えた2〜3月)、②春期・夏期・冬期講習の直前、③受験学年の駆け込み(1〜2月)。この集中度を定量化した公的データは確認できないため定性的な傾向にとどめますが、実務上の問題ははっきりしています。繁忙期ほど授業・面談・教材準備が重なり、電話に出る余裕が最もない時期に、問い合わせが最も増えるという逆転が起きるのです。

繁忙期の1件は、閑散期の1件と重みが違います。月謝制の塾にとって、春に逃した1件は単発の売上ではなく、年間を通じた継続売上の起点を失うことを意味します。夜間や休日に届く問い合わせの受け方は夜間・休日の問い合わせ対応の記事で詳しく扱っています。


特商法上、自動応対に任せてよい範囲はどこまでか?

答えは「事実情報の案内と体験授業の受付は任せられる。契約・解約・返金の個別判断は必ず人が担う」です。

学習塾は特定商取引法の「特定継続的役務提供」7類型のひとつです。契約期間が2か月を超え、かつ契約金額(入学金・受講料・教材費等の総額)が5万円を超える契約が対象で、事業者には契約前の「概要書面」・契約後の「契約書面」の交付義務があり、消費者は書面受領日から8日以内ならクーリング・オフができます(消費者庁)。中途解約も期間内なら理由を問わず可能で、事業者が請求できる損害賠償額には法定の上限があります。

一方、体験授業そのものは特定継続的役務提供に該当しません(一定期間継続した役務提供に当たらないため。東京都の解説による)。つまり体験授業の受付・日程調整は、法的リスクの低い「自動化してよい業務」です。

問い合わせ類型 自動化 理由
料金・コース・対象学年の一般案内 事実情報の提供(誇大表現は不可)
体験授業の受付・日程調整 特商法の特定継続的役務に非該当
クーリング・オフ制度の一般説明 制度の存在・窓口の案内まで
個別の中途解約精算額の算定 法定上限を踏まえた個別計算が必要
概要書面・契約書面の交付 法定の交付義務。人の対応が必須
「成績保証」など効果の約束 虚偽・誇大広告の禁止に抵触

(根拠:消費者庁 特定商取引法ガイド)

この線引きを実装に落とせば、一次応対の自動化は現実的な選択肢になります。Omago(オマゴ)は、顧客からの問い合わせに、顧客の言語で24時間自動で応対し、必要なときは人に引き継ぐAIエージェントです。料金案内や体験授業の受付は授業中でも深夜でも即時に返し、解約・返金のような判断を要する問い合わせは塾長に引き継ぐ——上の表の線引きを、そのまま運用に反映できます。同じ発想はパーソナルジムの体験予約にも当てはまり、通信販売での書面・表示義務との関係はECの問い合わせ自動化と特商法の記事で整理しています。


よくある質問

体験授業の受付を自動化しても、特商法上の問題はありませんか?

ありません。体験授業は一定期間継続した役務提供に当たらないため、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に該当しません(東京都の解説による)。受付・日程調整・持ち物案内といった定型応対は、法的リスクの低い自動化領域です。ただし、その後の入塾契約の場面では概要書面・契約書面の交付義務が生じるため、契約手続き自体は必ず人が担ってください。

授業中の電話は、留守番電話で十分ではないですか?

留守番電話は「記録」はできても「応対」はできません。比較検討中の保護者は複数の塾に同時に問い合わせることが多く、折り返しを待つ間に他塾の体験授業が決まれば、その時点で検討は終わります。2024年の学習塾倒産は53件と過去最多で、競争は激化しています。一次応対の速さが、体験授業の獲得を左右します。

少子化で市場が縮むなら、問い合わせ対応に投資する意味はありますか?

構造としてはむしろ逆です。母数が減るほど、1件の問い合わせの価値は上がります。学習塾の売上高は2023年で約5,812億円と10年前比約44%増ですが、同時に倒産は過去最多。伸びる塾と退出する塾の二極化が進むなかで生き残るのは、獲得した問い合わせを取りこぼさない側です。

AIがクーリング・オフの質問に答えてもいいのでしょうか?

「制度の一般的な案内」までは問題ありません。書面受領日から8日以内という制度の存在や、相談窓口の案内は事実情報です。一方、個別契約の解約可否・精算額・返金額の算定は、特商法の法定上限を踏まえた個別判断が必要で、必ず塾側の人間が対応すべき領域です。自動応対を導入する際は、この引き継ぎの境界を最初に設計してください。


出典:経済産業省「特定サービス産業動態統計調査(学習塾)」2023年(2024年12月調査で終了、以降は総務省「サービス産業動態統計調査」に統合)、経済産業省「特定サービス産業実態調査(学習塾)」平成21年、矢野経済研究所「2025年版 教育産業白書」2025年、東京商工リサーチ 2025年1月、消費者庁「特定商取引法ガイド(特定継続的役務提供)」、東京くらしWEB(東京都)、株式会社Grill 支援データ

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